イギリスの冬は、言ってみれば引きこもりたくなる季節だ。空は低く、灰色の雲が地上を覆い尽くし、雨がしとしと降り続く。午後4時を過ぎれば街は闇に包まれる。そんな中で、いつも感心するのは犬と一緒に散歩をしている人たちだ。彼らはどんなに天気が悪くても、犬を連れて外に出る。冷たい風が頬を刺そうが、泥が靴を汚そうが、犬には散歩が必要だし、それが犬の健康と幸福に直結していることを知っているのだろう。
犬の健康を保つために、飼い主も運動をする。結果として、彼ら自身も自然と健康的な生活を送ることになる。これは一種の共生関係だ。犬が散歩を必要とするように、人間も犬との散歩を通じて体を動かす。そんな彼らの姿を公園で見かけるたびに、私は少しばかり羨ましくなる。
冬のイギリスでは、どうしてもソファに腰を下ろす時間が増える。ブランケットにくるまり、熱い紅茶をすすりながら、読書や映画に没頭するのも悪くはない。ただ、それでは運動不足になることは明らかだ。
そんな私も散歩に出かけることがある。近所の公園をぐるりと歩くのだが、どうにも散歩そのものを楽しんでいるとは言いがたい。ただ「歩かなくては」という義務感に突き動かされているだけだ。
一方で、公園には犬を連れた人たちがいる。彼らには「犬を散歩させる」という明確な目的がある。それが羨ましい。目的があると、歩くことそのものがもっと意味を持つのではないか。そんなふうに考えるようになった。
そこで私はあることを思いついた。犬を飼うことができなくても、犬と散歩する方法があるのではないか、と。そうしてたどり着いたのが、「BorrowMyDoggy」というマッチングサービスだ。
このサービスでは、犬を借りたい人と、犬を貸したい人が出会うことができる。借りる側は年間13ポンド、貸す側は年間49ポンドを支払う。双方が互いに信頼を築き、近所でマッチングが成立すれば、犬を散歩に連れて行くことが可能になる。
もちろん、大切な愛犬を知らない人に預けるのは不安だろう。しかし、借りる側には住所や本人確認書類、写真などの登録が義務付けられており、信頼を得るためのシステムが整っている。また、一度関係が築かれれば、何度も同じ人にお願いすることで信用も深まっていくだろう。
こうして私の「犬探し生活」が始まった。まずは家の近くで犬を貸してくれる人を探し、彼らとコンタクトを取るところからスタートだ。
これが成功すれば、犬と一緒に散歩をするという新たな目的が私の生活に加わるだろう。義務感だけの散歩とは違い、犬と歩くことで、より楽しく、充実した時間を過ごせるはずだ。そして、運動不足を解消するだけでなく、犬との交流が私の生活にどのような彩りを加えるのか、今から楽しみでならない。
イギリスの長い冬の暗さを打ち消すように、公園を歩く犬たちは、飼い主の歩みに軽快なリズムを添えている。その姿を見ながら、私もまた、自分なりの方法で散歩を楽しみたいと思った。
人生の小さな楽しみは、こんな些細なところから始まるのかもしれない。犬と共に歩く散歩道が、私に新しい発見と健康をもたらしてくれることを願いつつ、この新しい習慣に一歩を踏み出してみようと思う。
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から754日目を迎えた。(リンク⇨753日目の記事)』
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