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ロンドンの行列と、生卵ごはんのこと

  • Writer: haruukjp
    haruukjp
  • 6 days ago
  • 3 min read


イギリスでは、誰もが「食」にそこまで情熱を注いでいるわけではない。少なくとも、私はそう思っていた。いや、正直に言えば「信じていた」と言った方がいいかもしれない。食べることのために何時間も列に並ぶなんて、合理主義の国・イギリスではちょっと考えにくい──と、そんなふうに。

けれど、最近その思い込みが少し崩れた。

ある日、紅茶をすすりながらふと読んだ記事に、こんなことが書いてあった。ロンドンの「Roti King」では、マレーシアのロティ・チャナイを求めて人が行列を作る。ブリストルの「The Bank Tavern」では、サンデーローストの予約がなんと数年待ちだという。さらに驚いたのは「Lannan」や「Farro」といったベーカリーのために、人々がわざわざ遠くからやってくるという話だ。エディンバラやブリストルの街角で、クロワッサンひとつのために長蛇の列ができるなんて、そんな光景が本当に存在するとは、正直思っていなかった。

なるほど、イギリス人だって行列をつくるのだ。いいものを求めて、静かに、整然と、長い時間をかけて待つのだ。

でも、私はと言えば──たぶん、やらない。

いや、絶対やらない。だって私は、行列に並んでまで何かを食べたいと思ったことが一度もないのだ。そんな時間があるなら、本を一冊読むとか、原稿のひとつでも書いた方がずっと性に合っている。食への執着というものが、どうやら私には根本的に欠けているらしい。

毎朝、生卵とごはん。醤油を少しかけて、混ぜる。それだけ。シンプルで、静かで、どこか小さな哲学がある。行列に並ぶ時間があったら、その分だけ米を炊いた方がいい──そんなふうに考える私は、やっぱりイギリスの「行列文化」にはフィットしない人間なのだろう。

それでも、そういう人たちがそこにいて、そういう風景が存在するという事実は、なんとなく悪くないなと思う。人それぞれの「こだわり」が世界を少しだけ面白くしているのだ。


また行列を避けて生きる日々が続いていく。私のテーブルには、今日も卵と米がある。

それで、けっこう満足しているのだから、不思議なものだ。


文:はる『ロンドン発・アラフィフ父のリスタートライフ』

ロンドン在住、アラフィフ世代の父が綴る、暮らしと学びと再構築の日々。海外での子育て、キャリアの再設計、日常に潜む哲学的な気づき――ただ前を向いて、自分らしい「これから」を丁寧に築くためのライフログです。

家族との暮らしを大切にしながら、自分自身の軸も柔軟にアップデートしていく。その過程で見えてきた気づきや工夫を、同じように変化の中にいる誰かに届けられたらと思っています。ロンドンの空の下から発信中。


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