
待ち合わせの時間になっても、彼女は一向に姿を見せなかった。もっとも、急ぎの用事ではないし、遅刻くらいで目くじらを立てるような私ではない。待つ間、空気を吸い込み、風の音に耳を澄ませながらグラストンベリーの風景を楽しんでいた。そして、彼女が到着したのは約20分遅れ。ツアーは完全にプライベートなものだったから、遅刻の影響は特に問題にはならなかった。彼女は悠然と現れ、微笑みながら挨拶をした。
東京で中小企業を率いる50代の女性社長。その肩書きが示すように、彼女の佇まいにはリーダーシップと芯の強さが感じられた。今回の旅は、彼女が希望者を募って企画した社員旅行で、参加者は3人。彼女と、初めてイギリスを訪れるという2人の部下だった。グラストンベリーへ向かう車内では、窓の外を流れる風景に部下たちが感嘆の声を漏らし、初めて触れる異国の空気に心を弾ませていた。その姿を見て、彼女もどこか満足げに頷いていた。
グラストンベリーのパワースポット
今回の目的地は、イギリス屈指のパワースポットであるグラストンベリー。アーサー王伝説や聖杯伝説の舞台とされるこの地には、グラストンベリートーやチャリスウェル、修道院跡といった神秘的なスポットが数多く存在する。しかし、彼女が一番目指していたのは「ストーンエイジ」という名前の石の専門店だった。この店では、ほかの店と比べて「感じる力が格別に上」というパワーストーンが扱われている。何人か連れて行ったことのある私の経験上、店に入った瞬間にパワーを感じる人も多い。
店内に足を踏み入れた彼女の目は、すぐに輝きを放つオパールのブレスレットに向けられた。入店してわずか5分。10万円もするそのブレスレットを、彼女はほとんど迷いなく購入した。その決断の早さは見事というほかなかった。
迷いと決断
一方、部下たちはというと、店内をじっくりと歩き回りながら、それぞれの願いに応える石を探していた。お子さんの受験を応援してくれそうな石、商売繁盛を願う石、自分の夢を叶えてくれる石。それぞれに思いを馳せながら選んでいたが、なかなか決められない様子だった。そんな彼女たちに、社長がさらりと言った。
「迷ったら勢いがなくなっちゃうよ。ここまで来ることなんて、もうないかもしれない。今買わなかったら後悔すると思うよ。」
その言葉には説得力があった。部下たちは彼女の言葉を胸に、予算と相談しながらそれぞれの石を購入することを決めた。迷いが吹き飛んだような彼女たちの表情は、どこか晴れやかだった。
社長としての決断力
決断力とは、特別な才能のように見えるが、実際には日々の行動や経験の積み重ねの中で磨かれるものだ。女性社長として活躍している彼女の姿は、そのことを実感させるものだった。彼女の堂々とした振る舞いや、迷いのない行動力は、同じ個人事業主として私自身にも大きな刺激を与えてくれた。
私も、彼女のように「決めるときには決める」力をつけていきたいと思う。日常の中で、そして仕事の中で、迷いを払拭する力を持つこと。それが、新しい挑戦を続けるための鍵になるだろう。
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から791日目を迎えた。(リンク⇨790日目の記事)』
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