ロンドンで買う日本米と、揺れる日本の米市場について──イギリスの物価上昇と私の台所
- haruukjp
- Apr 29
- 3 min read
Updated: May 9

ロンドンに住んで、もう何年になるだろう。最初はスーパーで豆腐を見つけるだけで小さな幸せだった。そして、今では、晩ごはんの米の在庫を心配している。そう、私の話だ。
ここ5年で、イギリスの物価は急激に上がった。まるでエスプレッソに注いだ炭酸のように、静かに、でも確実に。食品は20%は上がり、パブのビールの値段は跳ね上がった。生活費は体感で日本の2倍。ひとつひとつの数字が、じわじわと神経に効いてくる。
しかし、不思議なことに、日本米の価格を見つめていると、少し違うパターンが浮かび上がってくる。
ロンドンの中心部、ソーホーにある「らいすわいんショップ」では、5kgの日本米がセール時で22ポンド前後で買えることがある。ポンドを190円で換算すれば、だいたい4,000円。かつては高く感じたその価格が、今では妙に「普通」に思える。
一方、日本国内では、2024年以降、米の価格が上昇している。コシヒカリ、ゆめぴりか──かつては家庭の象徴だったその銘柄たちが、今やセールでも4,000円を超えることがある。理由は、米不足、天候不順、物流コストの上昇。そしてそれらが絡まり合って、見えないところで値段が跳ねている。
私の台所では、米がなくなるとロンドンの空気が急に冷たくなる。米は炭水化物だけではない。心の温度調整装置みたいなものだ。
それなのに、いざ日本の価格を見ると、ロンドンとほとんど変わらない。むしろ場合によっては、ロンドンの方が安いことさえある。それは、私にとってどこか歪な光景だった。日本米という、名前に「日本」とつくものを、外国の地で、ほぼ同じ価格で買っている現実。
経済の仕組みは複雑だし、為替も市場も流動的だ。それでも、私は思ってしまう。これはただの市場の動きなのか? それとも、食文化の地殻変動の前触れなのか?
ロンドンで暮らす私は、日本米の値段を通じて、日本のいまを遠くから見ている。たとえば夜、ハーブティーを淹れながら、炊飯器の音を聞く。米が炊ける匂いの向こうに、見えない何かを感じる。
たぶんそれは、故郷という名前の、やさしくて少し寂しい風景だ。
文:はる『ロンドン発・アラフィフ父のリスタートライフ』
ロンドン在住、アラフィフ世代の父が綴る、暮らしと学びと再構築の日々。海外での子育て、キャリアの再設計、日常に潜む哲学的な気づき――ただ前を向いて、自分らしい「これから」を丁寧に築くためのライフログです。
家族との暮らしを大切にしながら、自分自身の軸も柔軟にアップデートしていく。その過程で見えてきた気づきや工夫を、同じように変化の中にいる誰かに届けられたらと思っています。ロンドンの空の下から発信中。
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