息子が美術のプロジェクトで「日本製のマジックペンが欲しい」と言い出した。特にそれを指定されたわけではなく、彼自身の「これがいい」という直感のようだった。子どもたちのこういう直感には、どこか説得力がある。そこで私はネットショッピングで価格を調べてみた。
画面に表示された数字は、正直言って驚くものだった。イギリスではそのマジックペンが3本で10ポンド、1本あたり約3.3ポンドだ。
日本のネットショップで同じ商品を探してみると、1本75ペンス、3本で2.25ポンド。イギリスの価格の4分の1以下だった。これが「物価の違い」というやつなのだろうか。それとも「ブランド化」の成れの果てなのだろうか。
イギリスでは文房具店に行くと、このマジックペンは1本単位で売られていることが多い。しかも、1本4ポンドという値段だ。それだけではない。盗難防止用のアラームまで取り付けられている。それを見た瞬間、私はなんとも言えない違和感を覚えた。
日本の文房具屋では、こうしたマジックペンは無造作に、いわば当たり前のように置かれている。客が自由に手に取って、好きな色を選べる。どちらが良いかは一概には言えないが、ここには確実に文化の違いがある。
このマジックペンは海外でも高い評価を受けている。特にアートの分野で愛用されており、その実績がブランド力を押し上げているようだ。結果として価格が高騰し、手に入りにくくなる。皮肉な話だが、それが「ブランドの宿命」というものかもしれない。
イギリスの文房具文化はどちらかと言えば実用性重視だ。種類やデザインへのこだわりは少なく、シャープペンのような繰り返し使える文房具よりも、鉛筆やボールペンのような使い切りのものが主流だ。
一方で、日本の文房具は美しく、使いやすく、さらに耐久性がある。それが海外で評価される理由なのだろう。それでも昭和の頃、100円で買えたマジックペンが少しだけ懐かしい気分になる。
次、日本に帰る時には大量の日本製マジックペンを購入してイギリスに持ち帰ることに決めた。
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から747日目を迎えた。(リンク⇨746日目の記事)』
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