新しいスマートフォンを手に入れ、その移行作業を行った。SNSの利用頻度が高い私は、特にLINEの移行が重要だった。基本的にはクラウドに保存されているデータのおかげで、ほとんどのアプリはスムーズに引き継がれた。WhatsAppも、メッセンジャーも、すべてのチャット履歴が問題なく復元された。それは、技術の進歩に感謝すべき瞬間だった。
だが、LINEを開いたとき、事態は少し違ったものになった。そこには、過去2週間ほどの会話しか残されていなかった。
失われた記憶
私は2024年だけでも100人以上とLINEを通じてやり取りをしていた。それは日々の些細な雑談から、重要な約束事、感情を共有した言葉まで含まれている。そして、移行作業の中で、それらの過去の会話はすべて消えてしまったのだ。
原因はQRコードを使ったログイン方法にあるのだろうか?それとも、他に何か手順を間違えたのだろうか?いずれにせよ、消えた会話はもう戻らない。
名前だけが残る世界
幸い、お友達登録そのものは消えなかった。しかし、そこに表示されているのは、友人たちが設定したニックネームばかりだった。「ケーキ好きなひと」や「青いシャツの彼女」など、愛嬌のある名前もあれば、暗号のようなものもある。それらを見ただけでは、誰が誰だったのか、正確に思い出すことができない場合も多い。
私たちは、日々の会話の中で、互いの記憶を言葉という形で保存している。それが失われるというのは、過去の一部が削ぎ落とされるような感覚だ。
喪失の余韻
技術が進歩した現代において、デジタルデータの喪失は単なる情報の消失以上のものだ。それは私たちの生活、感情、記憶そのものに深く結びついている。そして今、私はLINEの中で失った記憶をぼんやりと思い出そうとしている。
この出来事は、小さなデータ移行の失敗かもしれない。しかし、それが示すのは、私たちがいかにデジタルに依存し、その中に自分の大切な一部を預けているかということだ。
次のスマートフォンでは、このようなことが起きないように、もっと注意深く作業しようと思う。だが、失われた記憶に対する喪失感が完全に消えることはないだろう。
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から765日目を迎えた。(リンク⇨764日目の記事)』
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