ULEZ(超低排出ゾーン)導入の背景とその効果
ロンドンという都市は、無限に広がる高層ビルの群れや、常に行き交う車たちとともに成長してきました。しかし、その都市化の影で深刻化するのが、大気汚染という問題です。排気ガスが混ざり合い、空気の質が低下し、日々生活する人々に健康リスクをもたらす。そんな中でロンドンが導入したのがULEZ(超低排出ゾーン)という政策です。
このゾーン内を走る車両は、厳格な排出基準を満たす必要があります。意図は一つ、大気中の汚染物質を減少させ、さらに市民の健康を守ること。有害物質を排出する車両には、日々、追加料金(2500円)が課せられる仕組みです。驚くべきことに、ULEZが導入された後、ロンドンでは大気汚染の濃度が明らかに減少し、健康被害のリスクも低下したというデータが報告されています。都市全体の環境が守られ、街を歩く人々が息をしやすくなったのです。
とはいえ、この政策はすべての市民にとって歓迎されたわけではありません。特に庶民層には大きな経済的負担を強いることになりました。ディーゼル車を所有していた多くの人々は、急な規制により泣く泣く新車を購入しなければならなくなり、その負担はかなり重いものでした。このような変更に適応できない人々にとって、ULEZは一種の経済的な壁となり、貧困層には大打撃を与える結果となったのです。
さらに、まだ使用可能だったディーゼル車が廃車となり、環境に対しては一層の問題が生じました。車両が捨てられることでゴミの問題が悪化しただけでなく、これらの廃車となったディーゼル車の多くは、アフリカ諸国に輸出されていることが問題視されています。アフリカでは、今もなお大量のディーゼル車が走っており、イギリスから輸出された車両は、すでに環境基準を満たしていない古いモデルが多いため、アフリカ諸国での大気汚染を悪化させる要因となっていると指摘されています。
電気自動車(EV)の普及とその影響
環境問題への対策として、EV(電気自動車)の普及が一つの解決策として注目されています。イギリス政府は2035年(当初2030年から延長)までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止することを決定し、その未来に向けてEVの普及を促進しています。EVの普及は、二酸化炭素(CO2)の排出削減に貢献し、地球温暖化の進行を防ぐための重要な一歩といえるでしょう。
しかし、問題もあります。EVのバッテリーの製造過程で環境負荷がかかること、充電インフラが十分に整備されていない地域が多いこと、さらにはEVの普及によって電力需要が増加し、電力供給が不安定になる可能性があることなど、クリアすべき課題が多いのです。
イギリスのEV政策とその未来
イギリス政府はEVの普及に向けた積極的な政策を進めていますが、同時に一部の大手自動車メーカーは、その普及に懐疑的な立場を取っています。大手企業は、EV市場に対して慎重な姿勢を見せ、今後の販売計画を縮小する可能性もあるとされています。この背景には、バッテリー技術の進化に時間がかかること、充電インフラが整備されていない地域が多いこと、そして市場の需要予測に対する不確実性があると考えられます。
さらに、EVの普及が進めば、電力供給への負荷が増大し、それに伴うエネルギー政策の調整が必要になります。再生可能エネルギーの供給量が不安定な場合、化石燃料を使わざるを得ない状況になりかねません。そのため、持続可能なエネルギー供給の体制を作ることも急務なのです。
電力発電所のCO2排出問題とその影響
EVの普及が進んでも、電力発電所でのCO2排出が続けば、その効果は限られたものに過ぎません。特に、石炭や天然ガスを使用した発電所では、依然として多くのCO2が排出されており、これが環境に与える影響は大きいのです。イギリスは再生可能エネルギーの導入を加速させ、化石燃料依存から脱却しようとしていますが、その過程で新しい発電所の建設や電力供給の安定化が求められます。
そのため、EVの普及に伴い、再生可能エネルギーの割合を増やすこと、また石炭火力発電の廃止を進めることが必須です。イギリス政府は、2035年までに全ての新車販売をEVにする目標を掲げていますが、その目標を達成するためには、電力供給のクリーン化が不可欠であることは言うまでもありません。
結論
イギリスは、ULEZやEVの普及といった政策を進め、低炭素社会の実現を目指しています。しかし、電力発電所でのCO2排出や充電インフラの整備といった課題も抱えており、その解決には時間がかかるでしょう。それでも、気候変動への対策は急務であり、持続可能な未来を作るための取り組みが求められています。イギリスはその道を進むために、その先に、より良い未来が待っていることを信じて、必要な政策と技術革新を積み重ねていく必要があります。
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から717日目を迎えた。(リンク⇨716日目の記事)』
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