美術館の高い天井が吹き抜けたカフェで、私は少し冷たい秋の空気に包まれながら席に座っていた。観光客の長い列ができており、温かい飲み物や甘いケーキを求めて彼らは静かに待っている。私もその列に並んで、すでに注文を終えた後だった。
カフェの片隅に視線を移すと、スタッフらしき二人がコーヒーを片手にくつろいでいるのが見えた。彼らは名札をつけ、カフェの制服を身にまとっている。列を成すお客たちをよそに、彼らはゆったりとした動作で、まるでこの場所が彼ら自身のリビングルームであるかのようにリラックスして話し込んでいた。忙しい時間帯にも関わらず、お客の席で休憩を取っているこの様子に、私の中には妙に暖かい感覚が生まれていた。
日本でこんなことが起きたら、すぐさまSNSに写真が上がり、炎上するかもしれない。けれども、ここイギリスでは、少し違う。彼らにとってはその時間が「きっちりと守るべき休憩時間」なのだ。客席であろうと、自分のリズムを保つことが大切であり、並ぶ客もその状況をただ受け入れている。そう、誰も焦っていない。
イギリスの、どこか寛容で、ゆったりとしたこのカジュアルさ。私はこの柔らかい距離感が好きだ。
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から716日目を迎えた。(リンク⇨715日目の記事)』
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