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72回目の母の日

  • Writer: haruukjp
    haruukjp
  • Mar 31
  • 3 min read


昨日はイギリスでは母の日だった。イギリスの母の日は日本とは違い、毎年3月の第4日曜日にやってくる。春がそこまで来ているのを感じさせるような、少し曖昧で、それでいて心がほぐれるような季節だ。

朝、子供たちは母親に感謝の気持ちを込めて、カードと花束を手渡し、さらにベッドまで朝食を運んできた。トーストにはバターが均等に塗られ、紅茶は適温に冷ましてある。子供たちはもう十分に成長し、自分の意思で「ありがとう」を伝えられる年齢になった。そういう年齢になった子供というのは、どこかしら頼もしく、そして少し寂しいものでもある。

近所に住む96歳の友人がいる。彼女の息子は昨日訪ねてきて、母の日を祝ってくれたという。だから今日は特に予定はないとのことだった。「特に予定はない」というのは、誰かと過ごすにはちょうどいい口実になる。そこで私たちは彼女を誘い、近くの国家遺産になっている場所へ出かけることにした。

そこでは、広い庭を歩いたり、歴史ある屋敷の中を見学したりした。敷地の中には何百年も前に植えられたオークの木があり、その幹には長い年月の重みが刻み込まれていた。風が吹くたびに、木々はまるで何かを思い出すように静かにざわめいていた。

そのあと、カフェに寄り、紅茶を注文した。

「何回目の母の日ですか?」と私は尋ねた。

彼女はしばらく考えてから、穏やかな笑顔で答えた。

「息子が72歳だから、72回目かしらね」

24歳で息子を産んだ彼女は、今年で96歳になる。72回目の母の日は昨日すでに祝ってもらったから、今日はこれで十分に幸せだと、静かに微笑んだ。紅茶の湯気が彼女の顔を柔らかく包み込み、その笑顔をより温かなものに見せた。

この記録はおそらく、まだしばらく続くだろう。彼女の意識は澄み渡っていて、体力もしっかりとしている。そして彼女は言った。「また来年も母の日を迎えられたら嬉しいわね」と。

その言葉は、春の陽射しのように優しく、しかしどこか切ない響きを持っていた。


:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から851日目を迎えた。(リンク⇨850日目の記事)』


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