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Writer's pictureharuukjp

イギリスホテルあるある 鍵が閉まらない



アクリル板越しに、不満げな顔で1時間も戦い続ける母がいる。彼女はきっと、相手が絶対に部屋を変えてくれそうにないと感じているに違いない。とにかく頑なな雰囲気だ。そこにはどうしようもない溝があるように思える。


母がイギリスを訪れたのは、待望の初孫に会うためだ。息子夫婦がイギリスに住んでいて、彼らに生まれた新しい命を待ち望んで半年。ついにその待ち時間も終わり、彼女はようやくロンドンへと降り立った。ロンドンに3泊し、その後パリへも寄る予定があり、息子夫婦の家ではなく市内のホテルに宿を取ることにしたのだ。


そのホテルは、3つ星ホテル、グーグルの評価が2000人近くによってつけられていて、スコアは3.3。まずまずといったところだが、価格はオフシーズンということもあって1泊70ポンドと格安だ。場所も悪くない。セントパンクラス、キングスクロス駅から歩いて2分の距離だ。しかし、その場所にはちょっと問題があった。周囲には絶えず怪しげな匂いが漂い、人の行き来も多い。ホテルのフロントは、わずか6畳ほどの狭いロビーに絶え間なく人が出入りしている。どうやら「ごった返している」という表現がぴったりの空間らしい。


そこで母は部屋の鍵の問題に直面した。部屋のドアは内側からは施錠できるが、外からは閉められないという不便極まりない仕様だという。スタッフは「通路にはカメラがあるし、誰も部屋には入らないから安全です」と説明している。しかし、私はその言葉に少し不安を覚えた。このフロントの混み具合を考えると、到底安全には思えなかったからだ。しかし今は、彼女にできることはほとんどない。


とりあえず、彼女は今夜の外出を諦めるしかなかった。ロンドンでの貴重な時間が失われるのを歯がゆく思いながら、私は念を押して「明日の朝、必ず部屋を変えてくれるように」とスタッフに頼み込んだ。彼はうなずき、明日には問題を解決すると約束した。


イギリスのホテルにありがちな話ではある。こうした細かいトラブルは、ある程度は我慢しなければならない。とはいえ、母が孫に会える喜びが、このホテルの問題を少しでも和らげてくれることを願っている。


文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から710日目を迎えた。(リンク⇨709日目の記事)』


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